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~その人らしく生きるために考える座位姿勢~

車椅子シーティングって何?

椅子・車椅子を利用して生活する人を対象に、座位に関する情報を分析管理し有効利用することをシーティングといいます。今回はそのシーティングを解説します。

座るという行動について考えたことはあるでしょうか。座るとは何かを広辞苑で調べてみると、膝を折り曲げて、席におちつく。また、腰かけるとあります。私たちは日々の生活の中で、目的や環境に合わせて姿勢を変化させ身体機能を維持しています。この座るという行動が、病気や怪我によって制限されたり、座ることができても歩けず車椅子での生活を余儀なくされたりしたらどう思いますか?

今回は、座位姿勢の特徴から車椅子と座クッションの選定・適合まで車椅子シーティングについて紹介したいと思います。

シーティングとは

NPO法人日本シーティング・コンサルタント協会(JSSC)※におけるシーティングの定義・シーティングとは、椅子・車椅子を利用して生活する人を対象に、座位に関する評価と対応(機器の選定、調整、マネジメントなど含む)を行うことです。

目的は、対象者等と共有した目標を達成できる適切な座位姿勢を実現することにより、二次障害予防、活動と参加の促進、心身機能・構造の改善を促すことです。

対象者等と共有した目標には、痛みがなく座れる、自分で食事ができるようになる、車椅子で外出できる、安全に車椅子やトイレに移れるようになるなどがあります。

座位姿勢について

座位姿勢には、大きく分けると活動的な座位姿勢と安楽な座位姿勢があります。活動的な座位姿勢は、体を起してデスクワークをしたり食事をしたり、また安楽な座位姿勢は、ゆったりとソファーに腰かけてテレビをみたり、本を読んだりすると考えると分かりやすいでしょう。

姿勢は、目的や環境に応じて骨盤の傾きや各部の位置関係が変わるため、シーティングには固定化された姿勢でなく、様々な姿勢が取れることを考えていくことが必要です。

不良座位姿勢の影響

座り続けていると徐々に姿勢が崩れ、首や腰が痛くなるということがあると思います。不良座位姿勢の持続は、いわゆる筋性疼痛を引き起こす場合がありますが、その他に以下のような影響があります。

・固定化された姿勢の崩れ
・身体各部の関節可動性低下
・呼吸機能低下
・摂食・嚥下機能低下
・褥瘡(仙骨・座骨・踵部・陰嚢・背部)
・心理面の低下
・介助量の増加
・転倒リスク
・浮腫
・活動的な姿勢がとりにくい
・内部臓器への影響
・立ち上がり、移乗への影響など

車椅子上で姿勢が崩れる理由

姿勢が崩れる理由として、座面・背面のスリングシートのたわみの問題、また車椅子のサイズが身体寸法に合っていない場合があります。これらは、サイズ合わせで対応できる範囲です。しかし、座位姿勢を保つ身体能力がない場合は、何らかの工夫が必要となるため、身体機能を評価します。

座面のたわみ

身体機能評価の手順について

①情報収集と方向性確認
②現状観察
 スクリーニング(Hoffer座位能力分類)
③マット評価(臥位)
④マット評価(座位)
⑤身体寸法計測
⑥目的動作のシミュレーション
⑦機器の選定・仮組み
⑧生活場面での試用
⑨再調整

車椅子シーティングの基本となるHoffer座位能力分類(JSSC版)、Hoffer座位能力分類(JSSC版)と選定の目安となる車椅子と座クッション、マット評価、身体寸法計測について説明します。

Hoffer座位能力分類(JSSC版)

Hoffer座位能力は、しっかりした座面上に座り、足底が床につく高さで評価を行い3段階に分類します。

座位能力1:手の支持なしで座位可能

座位で身体や腕を動かして安定し、30秒間座位保持可能な状態。

座位能力2:手の支持で座位可能

身体を支えるために、両手または片手で座面を支持して、30秒間座位保持可能な状態。

座位能力3:座位不能

Hoffer座位能力分類

Hoffer座位能力分類(JSSC版)と選定の目安となる車椅子と座クッション
座位能力1

車椅子は、身体の大きさにあった標準型車椅子を選びます。座クッションは、動きやすく座り心地が良いウレタンフォームクッションなどを選びます。

座位能力2

骨盤や体幹をサポートすることで手が使えるようになるため、車椅子は身体の大きさに合わせたり、背の角度が調整できるモジュラー型車椅子を選びます。座クッションは、除圧機能と座位保持機能を併せ持ったゲルとウレタンの複合クッションなどを選びます。

座位能力3

骨盤、体幹のほかに頸部や頭部のサポートが必要になります。リクライニング機構を必要とする際には、身体が前滑りを軽減するために、ティルト機能がついた車椅子を選びます。座クッションは、より除圧能力のあるエアクッションなどを選びます。背面にも接触圧を低下させるクッションが必要となります。重度の変形がある場合は、モールド型を検討します。

マット評価

車椅子の適合前に、臥位と座位で評価を行います。目標達成に向けた座位姿勢の肢位や車椅子の寸法、車椅子座面や背面の角度、骨盤や体幹、頭頸部、足部など身体をサポートする車椅子部品の位置や大きさ、形状など車椅子座位を想定しながら身体機能の評価をします。

身体寸法計測

目標達成に向けた車椅子座位姿勢を決め、その座位姿勢の身体寸法を計測します。身体寸法に車椅子の各部の寸法を合わせることが、車椅子適合の基本となり座クッションの寸法も合わせて考えます。

最低限必要な身体寸法部位 5か所

制度の利用

車椅子等を選定する場合は、対象者が使う制度を決めておく必要があります。関連制度には障害者総合支援法、介護保険等がありますが、使用する制度によって支給可能な種目が限られています。

車椅子シーティング研究

当院では、患者様の生活環境の見直しと同時に科学的根拠の構築などシーティング発展のため体圧分布測定装置を用いた車椅子シーティング研究を行い、学会発表、論文投稿に取り組んでいます。また、車椅子シーティングの介入により、臀部や腰背部の痛みの軽減や食事時の介助量軽減などの成果を上げています。

まとめ

シーティング介入なしでは、容易に不良座位姿勢となり、日常生活の自立度が下がり介助量も増えてしまいます。車椅子シーティングの介入は、単に車椅子に座れることを目的にするだけでなく、対象者等と共有した目標を達成し主体的な社会生活が送れるように福祉用具活用と環境改善を支援することです。基本を忘れず今後もスタッフ一同、地域の医療に貢献したいと思っておりますのでよろしくお願い致します。

解説・引用・参考

NPO法人 日本シーティング・コンサルタント協会(JSSC)
わが国におけるシーティング(椅子・車椅子使用者の身体並びに社会適合)に関する学術研究の発展を理学療法学、作業療法学の立場から図るとともに、シーティング相談に従事する理学療法士、作業療法士に対する教育指導、シーティングに関する製品評価並びに車椅子使用者等に対する相談事業を行い、国民の福祉に寄与することを目的としています。理学療法士、作業療法士に加え、2020年より医師、看護師、言語聴覚士、義肢装具士、介護福祉士を対象に追加しています。

引用・参考文献
日本シーティング・コンサルタント協会:“シーティングとは?”seating-consultants.org/whats-seating/
2022年11月14日、日本シーティング・コンサルタント協会:養成研修Aコース(2021)、日本作業療法士協会編:作業療法マニュアル71 生活支援用具と環境整備I-基本動作とセルフケア-2020

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